花の魔女
「ええ、そうよ。彼が私を好きになる伏線よ。よほど心労してるのかしらね、かかりやすくって驚いちゃった。仮にも魔法を扱う一族のくせに」
ドニは目を見開き、怒った顔でドロシーを睨んでいた。
ドロシーはドニのその様子に満足げな視線を向けると、背を向けて階段を降り始めた。
ドニは震える手を握りしめていた。
が、ふっとその手を緩めた。
「どうして、変わってしまわれたんですか」
静かなドニの声に、ドロシーは驚いて振り返った。
階段の上から、ドニが悲しそうな表情でこちらを見つめている。
ドニは目に涙を浮かべながら、震える声で呟いた。
「前のあなたは、こんなことしなかった……」
ドロシーはドニの言葉に一瞬目を見開き、すぐにキッとドニを睨みつけた。
「あんたに関係ないでしょう!」
そう言い捨てて踵を返すと、黒いドレスを引き上げて階段を駆け下りていった。
あとには、悲痛な表情で立ちすくむドニだけが、静かな廊下にぽつんと残っていた。