花の魔女
ぎくりと肩を揺らして振り返ると、そこにはあろうことかラディアンの母、アナベラが雪よけの傘をさして立っていた。
「ア、アナベラさん……」
どうしてこの村にいるのだろうと疑問を感じながら、ナーベルは居心地悪そうに身を縮こまらせた。
フィオーレはそんなナーベルを庇うように自分の背にナーベルを隠し、アナベラと真っ直ぐに向きあった。
「初めまして、アナベラ様。サイラス様の奥様でございますね?」
アナベラはフィオーレを見つめながら、不思議そうに首を傾げた。
その拍子に、傘にわずかに積もっていた雪がずるりと落ちた。
「主人を知っているの?失礼ですけれど、あなたはどちら様かしら?」
フィオーレは深々と頭を下げた。
「わたくしはフィオレンティーナと申します。花の精霊でございますわ」
「まあ、花の……」
そしてゆっくりと顔をあげ、再び頭を下げた。
「お許しください、アナベラ様。実は……」
「いいの、わかっているわ」
フィオーレがまだ何も言わないうちにアナベラはそう言い、フィオーレとナーベルは驚いてアナベラを見つめた。
アナベラはまだ雪が降っているのに傘をたたみ、二人を見つめて悲しそうな表情で微笑んだ。
そして、ふわふわと落ちてくる雪を受けながら鉛色の空を見上げた。
「来るときが、来てしまったのです……」