夏の幻
…しばらくそこに立っていたがミーコの顔が上がる気配は全くなく、それが余計に苦しくさせる。
「…これ、お土産」
俺は鞄の中から中華まんを取り出した。
夏に中華まんもどうかと思ったが、行ったのが中華街の近くだったのでそれに決めた。
何より、ミーコにそれを食べさせてやりたかった。
うつ伏せたままのミーコの隣に紙袋を置いて、「帰るよ」と呟いた。
呟いた後もしばらく立っていたが、ミーコは動く気配を見せない。
軽くため息をついて、俺は振り向いて歩き始めた。
…来たときの様な恐怖はなかった。
あったのは戸惑いと、胸の痛みだけだった。
……………