~秘メゴト~
「……ああ、そう云えば。あのときのケーキも美味しかった」


 あのときのケーキ?

 はて?


「中学ん時の」

「あっ」


 中1のバレンタイン!

 私は一気に恥ずかしくなって真っ赤になりつつ、それでも嬉しくて興奮してしまった。

「食べてくれたんですか!?」

「ああ…うん」


 甘いもの苦手な筈なのに食べてくれたんだ!

 その上、憶えていてくれたなんて。

 嬉しさと感動とが胸につまり、喉の奥にまで込み上げて、涙が出そうになってしまう。

 それをぐっと抑えると、頬が益々熱く火照ってきた。


「見知らぬ下級生からの手作りのお菓子なんて、絶対食べてくれないと思ってました」

「…まあね。普段ならまず食べないかな」


 私の視線から逃れるようにして、先輩は席を立ちキッチンへと向かう。


「けど…なんとなく、味見してみたくなった」


 冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出して、またこちらへと戻ってくる。


「風邪ひいてたから、普段と違うことしたくなったのかも」


 相変わらず私から目を反らしたまま、彼はグラスにお茶を注ぎ、それを一口飲む。


「私も、のど飴ご馳走様でした」

「ああ」

「実は1個だけ戴いて、残りは未だ飾ってあるんですよ」

「は!? 捨てろよ、そんなもん」

「嫌ですよぉ。あれは私の記念品なんですもの。初めてのバレンタインのお返し」

「もっとマシなもんやればよかったな」


 ふっと私に視線を戻し、先輩はふんわりと笑った。


「…次があれば、今度はもっといいもの返すよ」


 それは初めて見る、とても優しくて、とっても柔らかな笑みだった。





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