軌跡
 賢介に言ったことは嘘ではない。だが、真実でもない。確かにメロディーが浮かんでも、これは! と思うものが浮かばないのは事実だ。問題なのは、浮かぶ回数も少なく、それを気にしてもいなかったことだ。
 Locusでは、曲を賢介と睦也の二人が作っていた。どちらかが新曲を作れば、バンド内で小さなコンペを開き、そのコンペに通った曲だけが新曲として採用される。通っても通らなくとも、そこは恨みっこなしだ。このような形態を取ってきたからこそ、バンド内でも刺激を与え合い、相乗効果を生みだせてきた。そのバランスが崩れることを、賢介は心配していたのだろう。
「それと……」
「さぁ、おれたちも終わったから、上に遊び行くか」
 賢介の言葉を遮り、睦也は立ち上がった。賢介が何かを言いかけていることには気付いていた。何を言おうとしていたのかは分からない。だが、咄嗟に次の言葉を遮っていたのだ。
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