軌跡
 そういえば去年の今頃も、こうにやって夜道を歩きながらそんなことを思った。
 睦也はゆっくりと記憶の扉を開いていった。あれは秀樹が酔って食って掛かってきた夜だ。睦也もベロベロに酔っ払い、優に肩を借りながら帰ったのだ。
 あれからもう一年経つのか……。いろいろあったな。
 睦也は記憶の扉を、一つひとつ開いていった。過去と呼ぶには若すぎて、思い出と呼ぶには鮮やか過ぎる、それらを。 
 その中には、思い出したくないこともある。その瞬間に戻りたいと思うこともある。その瞬間に戻りやり直したいこともある。だがそれは、何一つ叶わない。ならば、その行為事態が無駄なのではないのか? いや、無駄ではない。自らと向き合っていくこと、それをずっと避けてきた。その結果が今ならば、その解決策は、己と向き合っていくことしかない。
 睦也は、暗闇の中に霞む、小さな光を見つけた。それは夜空に浮かぶ星よりも、さらに小さな光だった。
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