軌跡
「夕飯の用意、出来たよ」
 時計の針は七時近くを指していた。何だかんだで一時間は練習したことになる。弦を緩め、一通りベースを拭くと、ハードケースに戻し、食卓の前に座った。
「久々に家で練習してみて、どうだった?」
「大きい音を出せないから、微妙だよ」
 答えながら、テレビのスイッチを押した。
「小さい音で練習するからこそ、本当の実力が付くのよ」
「まぁ、誤魔化しが効かないからね。そう思って練習するよ」
 テレビからは、サザエさんのエンディングテーマが流れてきた。
「この曲ってさ、聞いてると憂鬱になってくるよな」
「何となく、分かるかも」
 優は箸を休め、寂しそうな笑みを浮かべた。
< 31 / 311 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop