サクラノコエ
真衣は俺に名前を告げたあと、すぐに消えた。

ふっと俯き、次に顔を上げたときにはもう理紗に戻っていた。

同じ顔のはずなのに、顔つきが確実に違う。

それは、とても嘘や演技のような次元の物ではなかった。

身震いがした。

真衣とは記憶が繋がっているのか、人格の入れ替わりを見られたことに理紗は気付いているようだった。

俺は、気まずそうにする理紗をまっすぐ見ることが出来ず

「送ってく……」

そう口にすると、理紗に背を向けて足早に歩き出した。理紗も俺の背中を追うように静かについて来た。

俺たちは、無言のまま歩いた。

少し距離を置いて歩く理紗の影が、時々街灯に照らされて、俯いて歩く俺の視界に入ってきた。

トボトボと悲しげに後をついてくる様子が影からでも感じられ、ますます胸を締め付けた。
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