サクラノコエ
「じゃあ……ここで」

例の路地で初めて振り返ると、理紗は目に涙をいっぱいに溜めていた。唇を噛みしめ、泣き出したいのを堪えている表情だった。

そんな辛そうな理紗の姿を目の当たりにしても、俺は理紗の頭を撫でてやることも、抱き締めてやることもできなかった。

「悠人くん、私」

「またな」

それだけ言葉にするのが精一杯だった。

なにか言いたそうにしている理紗の言葉を、次を言わせない勢いで遮ったのは、理紗の口から決定的事実を突きつけられるのが怖かったからだ。

つい数分前まで理紗をとても愛おしく見つめていたはずなのに。

理紗が……怖かった。
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