偽りの結婚
「シェイリーン」
不意に横から聞きなれた声で名を呼ばれる。
それは今一番会いたくない人のもので…
その声の方向に目線を向けると、やはり思った通りの人がいた。
「ラ、ラルフ…どうしたの?こんな時間に」
いつもはこんな時間に顔を合わせる事がないので、盛大に焦る。
「………。あぁ、今日は公務が早く終わったから久しぶりに二人で食事でもしようと思ってね」
ラルフの声も元気がなく、ちらっと見た顔はどこか悲しげな様子だ。
少し…罪悪感を覚えた。
あの日を境にして、ラルフを目の前にすると目を見て話をすることができなくなってしまっていて。
ラルフは公務で忙しく、昼間だけでなく食事の席にも顔を出すことが少なくなったし、夜は夜で、寝室に戻る時間を見計らって先に寝ていた。