偽りの結婚
ツーっと切ない涙が一筋頬を伝う。
それを目の端で捉えたラルフは口づけの合間に呟く。
「どうした?嫌なんだろう?ならば、抗えばいい。僕は力を込めていないよ?」
ラルフの言う通りだった。
ラルフは私の頭の横に手を置いているだけで、拘束しているわけではなかった。
だから嫌ならば簡単にその腕の中から逃げ出せるのだ。
けれど私は動けなかった。
否、動かなかった…と言うべきか。
嫌じゃ…なかったから……
ラルフが与えてくれる口づけは、ふわふわと気持ち良くて。
もっと…と、求める自分がいた。
しかし、それを口に出すわけにはいかない。
素直に口づけに応える事も、抗うことも出来ない私は、シーツをキュッと握りしめ、顔を逸らすことしか出来なかった。