偽りの結婚



そしてその箱の中にあった指輪を食い入るように見つめる。

それは私がラルフに別れを告げた時に返したプラチナの指輪だった。

取っていてくれたんだ……



「この指輪を捨てきれなくてね。また受けとってもらえるか?」


ラルフがその指輪を持って私に問いかける。

答えなどとうに決まっていると言うのに。




「はい」


私は泣き笑いのような表情を浮かべ、手を差し出す。

プラチナリングの冷たい感覚が薬指に馴染んで自分の体温と溶け合った時、嬉しい重みを感じた。

そして私も上質な布の上に置かれた自分よりも一回り大きい指輪を取る。







ラルフの大きな手を取って指輪をはめた瞬間―――



そのまま手を取られグイッと引き寄せられる。

途端に色めき立つ観客席。






「やっと…やっとだ…」


言葉を噛みしめるようにラルフは呟く。





「病める時も健やかなる時も、僕の傍にいると誓ってくれるか?」


ラルフは私を腕の中に閉じ込めたまま、ありったけの想いを込めて言う。

自分の台詞を奪われた司祭はただ朗らかに私たちを見守る。






そして私は今までで一番綺麗な笑みを浮かべて答える。





「はい、誓います」



その言葉にどちらともなく距離が縮まり、誓いの口づけをした―――



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