偽りの結婚
「僕からも条件がある」
ラルフがベンチから立ち上がり、こちらに向き直る。
やはり、その背丈は見上げるほど高かった。
「なんでしょう」
偽の結婚を頼んでおきながら条件を出すなんて何を考えているのかしら。
訝しげな表情でラルフを見上げれば、フッと笑う。
それはとても綺麗な、他を寄せ付けない完璧な笑みだった。
「結婚をしている間は夫婦として振る舞ってもらうけれど、決してお互いの私情に立ち入らないことだ」
「言うまでもないわ。お約束します」
そんなことを確認しなくとも私情に立ち入ろうとも思わないし、立ち入ってもらいたくない。
「一つお聞きしたいのですが…何故私をなのですか?」
「僕に興味がなさそうだからだよ。偽りの結婚で本気になられたら大変だからね」
どこからそんな自信が出てくるのかしら。
呆れてものも言えなくなる。