Parting tears
 温泉宿から病院までは三十分くらいで到着し、すぐに左手首を診てもらうと、骨折していたのである。物々しい包帯だらけの左手首、温泉で転んで骨折とは、つくづくまぬけな話しだった。地元に帰ったら、近くの病院で治療するように云われ、病院を出た。


「ごめんな、俺のせいで……。宿探すから助手席に乗っててくれ」


 和哉は責任を感じ、がっくりと肩を落とし、悲しそうな表情をしている。
 私はそんな和哉が可哀相になり、極力明るく振舞うことにした。


「和哉のせいじゃないよ。私ってドジだから、よく転ぶし小学生の頃なんて、あちこち骨折したくらいなんだから。行こう行こう」


 車を走らせても、和哉は時折「大丈夫か?」と心配そうにしており、テンションが低かった。

 それから宿を何軒か当たってみたが、どこも満員で私と和哉は口数も減り途方に暮れた。

 しかし、せっかくY県まで来たのだから、私は気を取り直して提案した。


「ねぇ、泊まる宿がないなら、和哉が知ってる自然に囲まれた場所で二人で過ごそうよ」


「車の中で寝ることになってもいいの?」


「いいよいいよ。和哉と一緒なら、たまにはそんなのも良いんじゃないかな」


「結麻は優しいな。ありがとう。じゃ、俺とっておきの場所に連れてくよ」


 そして和哉は少し元気を取り戻し、車を走らせた。

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