Parting tears
 お城からの眺めはとても良かった。晴れていて、昔の人と重ね合わせ、まるで武将にでもなった気分だった。


「こうして、外を眺めていたんだろうね。でも今とは全然見える景色も違っただろうし、どんな景色だったんだろう」


「ビルなんてないし、田んぼなんかも見えたんだろうな」


 しばらく景色を眺め、私達は帰ることにした。

 
 帰りは何となく寂しく思えた。家も近いし、すぐ会えるとは分かっていても、和哉と一緒にいる一分一秒がとても大事だったから。

 私の家の前に着き、またねと云った時、寂しくて堪らなくなった。


「帰ったら電話するね」


 和哉も同じ気持ちだったのだろう。そう云い残し車で去って行った。

 約束通り、しばらくすると和哉から電話がかかってきた。


「楽しかったよ。結麻は左手首大丈夫? 明日、病院一緒に行かないか?」


「私もすごく楽しかった。和哉といると、どこにいたって楽しいよ。左手首は大丈夫だよ。でも明日病院一緒に行ってくれるの?」


「もちろん。早く治るといいな。俺のせいで……ごめん」


 和哉のトーンが下がったので、私は明るく答えた。


「和哉が一緒に病院いくなら良かった。じゃあさ、病院終わったら一緒に洋服買いに行かない? 夏服の新作出たんだよね」


「いいよ。結麻はお洒落だよな。何でも似合うし」


「褒めても何も出ないよ。和哉だってお洒落だと思うよ」


 この時、きっと私も和哉もお互いしか見えていなかったんだと思う。この先どうなるかなんて、考えもしなかったのだから。

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