Parting tears
 この人がお兄さんなのかな。私は驚いたが、腹が立っていたため黙ってお辞儀をすると、お兄さんらしき人もお辞儀をして家に入って行った。


「これ、結麻が欲しいだろうなと思って。兄貴から電話が来て、景品であるって聞いたから、パチンコ屋に行ってたんだ」


 そう云いながら、大きな袋から「ボン」のぬいぐるみを出して私に手渡した。UFOキャッチャーで取った物より、二周りくらい大きなぬいぐるみだった。

 おかしなもので、私は腹が立ってた気持ちなど一気に吹き飛んでしまったのである。


「ごめん和哉。私待ってる間、不安になって。そしたら腹が立って……」


「いいんだよ。俺が電話に気付かなかったのが悪いんだし。このぬいぐるみ絶対欲しくてさ。それに、半分は兄貴のお陰で手に入ったんだけどね」


 そこで、私は疑問に思っていたことを訊いた。


「和哉って、お兄さんの話しするの嫌みたいだったけど、仲悪いわけじゃないんだね」


「兄貴とは仲良いよ。ただ誰にも会わせたくなかったのが本音かな。でも結麻には会わせようかなって思ってたとこだし」


「どうして、誰にも会わせたくなかったの?」


「ああ、兄貴は俺とタイプ違うだろ? 兄貴の趣味がアニメの女の子のフィギア集めだし、何せマニアックだからさ、誰かに会わせて兄貴を馬鹿にされるのが嫌だったんだ」


 成程。それで、誰にも会わせたくなかったというのか。一つ謎が解けた気がした。

 こうして、お互いの謎が少しづつ解けていくんだろうなぁ。
 私はそんなふうに思いながら、和哉と一緒の未来を夢見るようになっていたのかもしれない。

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