Parting tears
 どこに行くのかと思ったら、K県のカラオケボックスだった。
 

「何でカラオケなの?」


「ゆっくり話したいってのもあるし、結麻の歌、もう一度聴きたいからかな」


「変なの」


 私達は笑い合い、傍から見れば恋人に見えるのだろうか。

 そしてカラオケボックスに入ると、私はどうしても疑問だったことを訊くことにした。

 
「ねぇ、和哉、私と付き合っている時、どうして携帯や自宅の電話に度々出なかったの? あの頃は、和哉が浮気してるんじゃないかって後から疑ったけど」


「ああ、そのことか。もう時効かな? 俺さ、結麻のことが好きで好きで仕方なかったんだ。結麻しか見えてなかったから、結麻がちゃんと家にいるのか、ちゃんと眠れるのかすら心配で、だから結麻の家の前で、部屋の電気が消えるのを確認してから家に帰ってたんだよ。そんな時は、結麻から電話があっても出れなかったから」


「それなら云ってくれれば良かったのに」


「そんなこと云えるかよ。もし結麻に云えば、嫌われると思ったから。あの頃の俺は、結麻を失うことが怖くて仕方なかったしな」


 私達は見つめ合ったが、あの頃のようにキスはしなかった。もう恋人ではないのだから。
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