王国ファンタジア【氷炎の民】外伝~新生~
第7章 冬火祭
 冬火祭がやってくる。
 1年のうちもっとも日が短い一日。
 本格的な冬が始まる前の氷炎の民の祭り。
 この日だけは、子どもたちも夜更かしを許される。
 町の広場には氷炎の民の魔火が焚かれる。
 ご馳走がふるまわれ、魔火の周りで着飾った人々が踊り明かす。
 素朴な祭りでもあったが、また男女の出会いの場でもあった。
 とうぜん、祭りの前から人々の心は浮き足立ったものとなる。
 
 しかし、メイリアの気分は晴れなかった。
 彼女の体調はいまだ完全に回復してはおらず、祭りへは日暮れ前のほんのひと時、行くことを許されただけだった。

 それでも、彼女の母はメイリアを着飾らせることに余念がなかった。
 片方の肩が出た真っ青なドレス。
 胸元にはきらきらと輝くビーズが散らされ、スカートの部分にはフリルが幾重にもついている。肩が冷えないようにと、半透明なほど薄く白い絹布を肩にかけられる。
 
 細すぎる手首は淡雪のようなレースの手袋に包まれている。
 いつもの三つ編みは解かれて、波打ちながら背中に流れ落ちている。
 青白い顔は銀の髪に縁取られ、頬のそげ具合も目立たない。日に当たらなかったせいか、最近は鼻の上の雀斑も目立たない程度に落ち着いていた。

 色を失った頬には紅を差され、薄い唇にもほんのりと紅が乗せられている。
 耳には青い石のついた耳飾が下げられ、メイリアの憂いを帯びた青い瞳に優しい色を添えていた。

 そうして鏡の前に立つと長く床に着いていたための弱弱しい痩せこけた見かけは緩和され、彼女本来の気まぐれな妖精のような愛らしさが際立った。

 しかし、そんな自分の姿を見てメイリアはため息をついた。
 眉間に皺がよる。

「メイリア、そんな顔をしないの。せっかくの美人さんが台無しよ」

 母親は娘の銀の髪に仕上げとばかり、庭の温室から摘み取ったばかりの瑞々しい白い花を一輪飾り付ける。

「ほら笑って」

 母親の注意にもメイリアに笑顔は戻らない。すねたように口を尖らした。

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