Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]
――どんっ…
すぐに村瀬は拒絶するように俺を突き飛ばした。
『…村瀬』
そのときの瞳がまるで…
まるで何か汚らわしいものでも見るような瞳をしていて…
その瞳を見た瞬間、心臓をえぐられたような強い痛みが走った。
『…ごめ…んなさい…あた…し…』
村瀬は苦悶の表情で後退り、踵を返すと、来た道を戻って自宅とは逆方向に向かうタクシーに乗り込んだ。
走り去っていくタクシーが見えなくなるまで歩道橋の上からぼんやり眺めていた。
あんな話をした当然の報いなのかもしれなかった。
純粋で穢れのない村瀬に比べたら俺なんか汚いを通り越しているのかもしれない。
『…くっ…』
なぜか立っていられなくなってその場にしゃがみ込んだ。
『西崎さん』
天真爛漫な村瀬の笑顔を瞼の裏に思い浮かべる。
『西崎さん』
いつも何をするにも俺の後をついてきた村瀬。
『西崎さん』
分からないことがあると真剣な眼差しで俺の話に聞き入っていた。
『…村瀬』
どうしておまえは…
『…村瀬』
いつもいつも捕まえようとしても…
『…村瀬』
俺の腕をすり抜けていくんだ――…?
『……っ…』
突然どうしようもなく込み上げてきた喪失感に自分でも信じられないモノが瞳からこぼれ落ちた――…
その瞬間。
鈍色のアスファルトにキラリと光るモノを見つけた――。