Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]
――PM23:20
こんな時間にいるはずがないって思ってた。
だけど――
タクシーを降りてすぐにその姿を見つけると、どうにも抗えない力に吸い寄せられる。
ここに来るまでずっと肌身離さず握りしめていた名刺が、役目を果たしたように手の中から滑り落ちていった。
『……陽菜』
ガラス張りの小さな店舗。
中からショーウインドーのディスプレイを手掛けていた陽菜がガラスの向こう側の俺を見て目を丸くする。
『――7月の中旬にね、インポートバッグのセレクトショップをオープンさせるの。
あ、これ私の名刺ね。
住所ここだからよかったら遊びに来てね』
村瀬を食事に誘った日、突然店に訪ねてきた陽菜。
6年前に俺と別れて旦那である建築家・小早川恭弥についてスペインに渡ったはずだった。
以来、小早川恭弥はスペインを拠点としていて妻であった陽菜とはその後一度も会っていない。
その陽菜が離婚して日本に帰ってきた。
『マキタ…って?』
『旧姓。私、別れたのよ? ……小早川と』
『…なん…で?』
だって…俺とあんな関係になっても恭弥のことを愛していたはず。
陽菜の心の中には恭弥しかいなかったはず。
『…もういろいろ疲れちゃって』
『…まさか向こうに行ってもあいつの癖治らなかったのか?』
陽菜は力なく微笑んでうなずく。
ただただ怒りに震えた。
『…別れようって向こうから言われたの。結婚してちょうど10年目の日だった。向こうは覚えていなかったけどね。それで私も踏ん切りがついた。今はようやく肩の荷が下りたって感じ』
陽菜はさっきまでとは一変して晴れ晴れとした表情をする。