花粉症の男性が出会った植物
「あっああ…。見たことない品種だが、新種なのか?」

「ほお…。植物にお詳しい方で?」

「趣味だけどね。でもひどい花粉症で、残念ながら花粉のある植物は買えないんだ」

「ふむ…。しかしお客さんなら、大丈夫かもしれませんね」

「花粉はそんなにないものなのか?」

「相性によりますがね」

男は意味ありげに笑う。

「この植物は自分の持ち主を選ぶ。気に入った主人には、美しい姿を見せてくれるんですよ」

そう言って一つの鉢を上げて見せる。

「だっだが花粉が…」

「なあに。お客さんと相性が合わなければ、花は自然に枯れます」

「そっそれじゃあ花がかわいそうじゃないか!」

「ふふっ。お客さんはお優しい。…おや?」

男が不意に視線をそらしたので、思わずオレもそっちを見た。

数ある植木鉢の中の一つが、小さな花を咲かせていたのだ。

…さっきまで、つぼみもなかったハズなのに。

「このコ、お客さんを気に入ったみたいですね。このコならば、花粉に悩まされることもないと思いますが?」

「しかし…」

やっぱり不安だった。

こんなに躊躇するぐらい、ひどい花粉症なのだ。

「…ならこうしてくれないか? もし花粉がひどかったら、引き取ってくれ。その時返金はしなくてもいいから」

「ふむ…。いいでしょう。お客さんが気に入らなければ、返却してください。お金は売った方に咎がありますから、お返ししますよ」

「だが…」

「良いんですよ。こちらには自信がありますから。お客さんが必ず満足するという自信が、ね」

あまりに男が自信ありげに言うので、渋々承諾した。

植木鉢は小さいにも関わらず、良い値段がした。

けれど男は取り扱い説明書を付けてくれた。

それに返却するなら、全額返済ときた。
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