花粉症の男性が出会った植物
しかしまたもや翌朝、びっくりした。

あれほど固かったつぼみは、今や色を変え、柔らかそうにふくらんでいた。

「そんなまさかっ!」

おそるおそる触れてみると、確かに柔らかい感触。

鼻を近付けると、甘い匂いがかすかに漂ってきた。

「…血が、栄養になっているのか」

にわかには信じられなかった。

しかし現実は目の前にある。

オレは不思議な高揚感を感じた。

この植物は、まるで血を分けた我が子のようだ。

おかしな言い方かもしれないけれど、オレの血を栄養とし、ここまで成長するなんて、自分の子供とも言える。

オレはしかし、心残りがありながらも、会社へ向かった。

収入を得なければ、オレが生きていけないから…。

けれど本心を言えば、この植物の側にずっといたかった。

成長を一時も眼を離さず、見つめ続けていたかった。

オレは仕事が終わると、走って家に帰った。

植物は朝見た時よりも、少しつぼみがふくらんでいた。

オレは買ってきたミネラルウォーターを開けた。

今までは水道水だったけれど、植物用の水もあるのだ。

途中、花屋で買ってきた。植物に良いと思って。

コップいっぱい分そそぎこむと、今度はカッターで指を切った。

ボタボタ…

透明な水が、赤い血がまじり、濁る。

けれどそれを植物にそそぎこむ。

「これで元気になってくれよ♪ お前がどんな成長した姿を見せてくれるのか、楽しみだ!」

翌朝、起きて見ると、予想が的中した!

花が咲いていたのだ!

淡いピンク色の、可愛らしい花々が咲いていた!

そして柔らかくも甘い匂いが、部屋に満ちていた。

けれど花粉症の症状は起きない。

どうやらあの男が言った通り、本当に相性が良いみたいだ。

オレとこの植物は。
< 5 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop