宝石よりも
『ごめん、ナオ』
俺は遠くを見つめながら、小さな声で呟いた。
『俺、七海に会えない』
それだけ言い残して、その場を駆け出した。
『カイ!?』
驚いた直樹の声を背中で聞いて、とにかく俺は走った。
走って走って走って。
いつの間にか海に来ていた。
息を切らして浜辺に立つ。
潮のにおいを漂わせたぬるい風が、俺の頬をそっと撫でていった。
何も知らない大きな海は、今日も明るい陽の下でキラキラと煌めく。
残酷なほどに、美しく。
すうっと、俺の頬を伝った雫。
俺は足下にあった脆くて弱い貝殻を、粉々になるまで踏み潰した。