宝石よりも

「何してるんだよ、こんなところで」



不機嫌そうな声が波の打ち寄せる音に混じって聞こえてきて、俺は目を開けた。



「邪魔しないでよ。一人の世界に浸ってたのに」



夜だというのに野球帽を頭に乗せている直樹を振り返った。


パーカーのポケットに手を突っ込んで、直樹は少しむっとした顔をした。



「何か用?」



砂の上に腰を下ろしながら尋ねた。


直樹がわざわざ俺に会いに夜の海にくるなんて、何か用があるに違いない。



直樹は帽子を取って、彼もまた腰を下ろした。



「いなくなっちゃったんだろ、彼女」


< 88 / 103 >

この作品をシェア

pagetop