嘘つき③【-束縛-】
そうして、奇妙なランチタイムは終わる。
あたしは彼女、琴音さんと昼食をご一緒して、張り詰めた糸みたいにピンとなるのを感じた。ご一緒、なんて妙に丁寧な言い方になるのは仕方ない。
だってこの人、何から何まで上品過ぎる。
「私が誘ったのですからお支払いは済ませますわ」
伝票をまるで流れる様に自然にもつ彼女に「あ、あたしが払い、ます」と何故かどもったあたしに、琴音さんは心底意外そうな顔をして、そう言った。
駄目だ、話が通じない。平行線。
「そんなわけには行きません。部長に怒られます。それにあたしの方が年上ですし」
部長に、怒られる、なんてとっさに言っただけで別に知らないけど。年上ですから、そのフレーズがあたしの小さなプライドなのかもしれない。
琴音さんは、少し驚いた様に、だけどおかしそうに笑ってから
「冴木さんが叱られるのは大変ですわ」
と伝票を渡した。自分の分のお金を添えて。