ヒレン
「座っていて」


入り口においてある電気ポットのスイッチを入れ直すと、智子は茶葉の準備を始めた。


「ホットとアイスどっちがいい?」


振り向きもせず背中を向けたまま尋ねる。


「ホットで」


その声がやけに大きく聞こえた。


気付けば、そこは腕の中



自分の手のやり場に困っていた頃、沸騰を知らせるアラームがなった。



そのわずかの時間がやけに長く感じた。


「お茶いれるから」


そう言って秀明(かれ)の身体 (からだ)から離れると、温めるお湯をポットに注いだ。


お茶を蒸らすわずか数分の沈黙さえも、苦しい。


「はい。いつもと同じで」


そういってマグカップを秀明の前に置いた。



背中を向け、自分のカップに口をつける。




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