ヒレン
いつもの交差点で、李音と別れると舞子は真っ直ぐ、マンションへと急いだ。


部屋に入るとまずパソコンを立ち上げ、その前に座る。



(優太、禁忌を犯したあの日から私の夢はあなたと二人、あの旅館を守っていくことだった。


父様とお母さんみたいに。叶わない夢だとわかっていても。



でも、でも、離れて暮らすようになって3ヶ月だけど、何かが変わってきているの。


愛している。


この気持ちに変わりはないけれど。



ずっと守ってきた伝統を捨てられるはずもないのに)


携帯が隣で震えていた。


「お母さん?どうかした」


「元気そうでよかったわ。夏休みいつ帰ってくるかなって思って。やっぱり手伝って欲しいのよね」


「うん。そうだな、第一日曜辺りには帰れると思うけど。最盛期には必ずいるから」


「助かるわ。必要なものがあったらまたいってね。おやすみ」


電話が切れると、そのままメールを打った。


もちろん…10分ほどで着信がなった。

「…優太」


「もしもし、……大丈夫か?」


「うん。優太も元気?」


いつも、いつも優しい優太の声。



その優しさにいつも甘えてる。



こんなに弱い私。


「ああ。瑛子さん、帰ってくるのをすごく楽しみにしていた」


「うん。帰るから、・・・・・・抱きしめてね」


「・・・・・・ああ」


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