刀人―巡りめく戦乱の中で―
記憶の中の優しい彼がそっと私に語りかける。


「お慕いしております、姫。……いえ、祭<マツリ>」


胸が締め付けるように痛むのは、きっと彼が傍にいないから。

皮肉にも彼の唯一の遺品になってしまった小太刀をゆっくりとその手に取ると瞳を閉じた。
これで何度自害を考えたのかはもう覚えて居ない。



しかし、ここで自分が死んでしまえば残された民はどうなるのか? 



小さい頃から私の命は自分一人のものではないと反芻するように教育されてきた。

須江長の国はあまり裕福でない為、他国に献上できるものがこの国にはない。過去にそうした国の行く末を知っているからこそ、あと一歩の所で柄を握る手に力を込めることができないのだ。


呪いのように代々引き継いで繰り返し教えられた言葉


”我が命は民の物”


そして、何より他の感情を抱いてはいけないと。


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