刀人―巡りめく戦乱の中で―

今なら小さい頃に父上からそう教えられた理由が良く分かる。

無為な縁談時に肯定するしか選択肢を持たない花嫁を育てなければ、自国の為にならないと。それでも吉良と出会ってからの父上は理由は分からないにしろ、それを強制しようとはしなかったように思える。


そんなことすら懐かしく感じる数々の情景が瞼の裏に映し出される。


思い出に浸る心を断ちきるように閉じる力に抗うかの如く瞼をそっと開けた。

小太刀を胸に抱いてゆっくりと立ち上がり着物の裾を翻して縁側へと足を向けると、風通しが良いのか縁側には心地良い風がそよそよと吹いていて、その場に足を折って座り込むと床板がキシリと音を立てた。



”祭”



名前一つ、呼ばれるだけで心が躍るような気持ちになること教えてくれたのは他でもない貴方でした。


私の心がこの漆黒な空のようであるならば、貴方はその中で孤高の如くに輝く月のように私を照らしてくれていた。


絶望の中に導かれた一筋の光。それを絶った憎き敵国の主に嫁ぐという悲しき運命を呪った。