ソレデモワタシハアナタヲアイス
「…これで腱鞘炎になったら誰に慰謝料、請求すれば良いワケ?」
ひたすらパンに挟まれたウィンナーの上にケチャップとマスタードを絞り出しながら、サキはすでに不機嫌だった。
「こんな事で腱鞘炎になるワケないでしょ!良いからサクサクやってよね!行列なんだから!」
いつも通りのサキに構っているヒマのない真由子はピシャリと言い放った。
「美咲、接客の基本は笑顔だよ、笑顔」
真由子と一緒に店番をしながら笑顔の見本を作った隆太に、疲れきったサキは睨む気力さえなかった。
「…後、何人分やれば解放されんの?」
溜め息をつきながらもサキは手を止めずに仕事をこなしている。
「並んでる人、全員やるに決まってるでしょ!うちの出店が絶対売り上げ1位になるんだから!」
淀んだオーラを放つサキと正反対に、真由子は売り上げを上げる事に熱くなっている。
「サキ、おまえ抜けらんねぇの?」
俺はサキの耳元に寄った。
「…真由子に聞いて」
サキも絶好調に燃えている真由子には逆らわないらしい。
せっかくの文化祭だというのに、サキがこのままじゃ2人で歩けない。
それよりも何よりも、俺はまだサキによって完成されるこのホットドッグを1口も食べていなかった。
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