溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
「透子ちゃんの手術が急に早まってしまって…。
その連絡を瞳さんから受けたのは大賞の授賞式の会場だったの。

今まさに手術をしてるっていう時で…瞳さんは
大丈夫だから立派に賞をもらってきてって竜臣くんを励ましてくれて、
心配で心配で体が強張ったままだったけど…なんとか授賞式を無事に終えて。

その翌朝透子ちゃんの手術が成功して…竜臣くんは声も出さずに泣いてたの」

ほっこり笑う弥恵さん。

…言葉が染み入ってくる。

父が私の手術に心を痛めてくれていた事や、大賞をとる為の葛藤…。
会いたいって思ってたっていう事実に嬉しくて、気持ちが浮ついてしまう。

ずっと会いたいと思ってた訳でもない。
いつも思い出していた訳でもない。
私のなかで有二ぱぱという存在が大きな位置を占めているから、父を心の奥にしまい込んでいたのかもしれないけれど。

父を欲するのでもなく恨むのでもなく過ごしていた。

それでも、やっぱり。

私の潜在意識のどこかには、父が私を望んでいなかった…私を母に置き去りにしたと思い込んで。

父に対して負の感情を持っていたんだろう…そして、その感情が私を縛っていたんだと気づいた。

「本当なら手術までに遠目からでも透子ちゃんを見るために病院に行くはずで…瞳さんと相談してたんだけど、透子ちゃんが急に倒れて手術になって…あの時の竜臣は透子ちゃんの事しか頭になかったんじゃないかな」

…とどめだ…。

静かに話してくれる弥恵さんの言葉が私の心いっぱいに広がっていって、
じわじわと…落ちてくる。

私が我慢していた想いがぽたぽたと落ちてくる。

涙になって落ちてくる…。

「…父さん…う…っく」

知らずに漏れる嗚咽を我慢できずに両手で顔を覆っても、流れる涙を止められない。

「会いたかった…」

そう。

ただ会いたかった。

父さんに。
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