溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
「多分、小山内さんと出会えてなかったら、ここまで今の仕事に人生費やすなんてしなかったな。親の才能を引き継いだだけの俺には努力してまで建築に携わる気はなかったからな…」

「あの…」

何か私に話があると聞いて、この部屋までついて来たけど。

一向に仁科さんの真意がわからない。それどころか父との思い出話ばかりを聞かされている。

悲しくて寂しい気持ちを表すように響いている鼓動に堪えるのにも限界があって…どうしようもなく泣きたくなる。

父との縁が薄い娘…。
そんな私に一体どんな話があるっていうんだろう。

「…話って…父の事でしょうか…」

静かにそう聞く私に、仁科さんは少しだけ目を細めた。
何か思い出したように動きを止めて、ふっと息を吐き出して…。
スーツのポケットに片手を突っ込んだまま天井を仰ぐ仕草に訳がわからなくなる。

「…仁科さん…?」

「それ、小山内さんもよくしてた」

「え…?」

「眩しそうに手をかざしてた」

窓から入る十分過ぎるほどの日差しが眩しくて、両手を額の高さにかざして影を作りながら立つ私。

その仕草を真似る仁科さんは、どこか面白がってるように見える。

「一緒に暮らした事がなくても、伝わるもんは伝わるんだな。
透子ちゃんの仕草見てたら小山内さんとダブる。

そうやって眩しそうに立ってる透子ちゃんは、確かに小山内さんの子だって教えてるみたいだな。

…作品見ても、ちゃんと小山内さんの血を引いてるって…ま、悔しいけどわかる」

…きっと、仁科さんは父が大好きなんだろう…。
今も。
父との思い出を話してくれる様子には、どこか懐かしくて温かい過去を振り返るような穏やかさ。
仁科さん自身、冷静で慌てる事なく日々を過ごしている印象なのに、父の事を話す時はそんな様子はなくて。

隠す事なく想いを出してくれる。

父を、好きだったんだな。

「透子ちゃんを、いつも恋しがってたよ。
遠くから見たり、透子ちゃんが携わった物件を葵から聞いては見に行ってた」
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