溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
「こっち、来て」

あらゆる感情と思考が麻痺したように私を捉らえてるのを感じていると、そんな私に気づいてないように仁科さんは手招きして私を呼んだ。

部屋の明るさを担う大きな窓。その端に立ち私を優しく見つめている。

仁科さんから告げられた言葉に動揺がおさまらないままに、無意識に近い状態で足を動かしている…。

父がこの部屋を設計したって聞いて、おまけに私への想いを込めて…なんて聞いて、平常心でいられるわけない。

はっきりとした像としての姿が浮かばない父親を心の襞に抱えているのにも否応なしに気付かされて。
遠いままの父親が、すっと私の近くに来てくれたような。

「光が、窓からいっぱいに差し込んでるだろ。
この透明なガラスを通して…」

「はい…」

「とにかく明るい部屋にしたいって考えてここの設計をしたらしい。
…俺もここで披露宴したんだ。その時に小山内さんが言ってた」

「…」

「披露宴で、弥恵さんと二人並んで笑ってたのがつい昨日の事みたいだけどな…」

ふと…つい口から出た言葉だろうけど。
この広い部屋にいたという父の姿を思い浮かべると切ないし、悲しいし、仁科さんにも悔しい気持ちがわきあがってくる…。

私には幸せそうに笑う父の様子を見た記憶もないのに。
…はぁ…。

小さく吐き出すため息を我慢できなかった。

「葵も俺も小山内さんに可愛がってもらったし厳しく仕事も教わったな。

小さい頃に両親亡くしてから、小山内さんにとって俺らは…自分の子供みたいな感じで…」

やだ…。

少しずつ増えてくる嫉妬という暗い感情が、目の前を覆っていく。

「俺と葵の入学式にも顔を出してくれたし誕生日は忘れずに祝ってくれた」

だから…やめて欲しい。
これ以上仁科さんを羨むばかりの気持ちを生まれさせないで欲しい。

とくとく響く鼓動が体中に広がっていく。




< 289 / 341 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop