溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
「それは…」

葵さんが私の様子を父に伝えていた事は知っているし…吉井さんから見せてもらったファイルにはあらゆる私の携わった物件の資料や写真が満載だった。
私が記憶していないかなり前の物も含まれていたのには驚いた…。
単純に私の様子を気にかけていてくれただけじゃない深い…あまりにも大きな愛情が散らばっているファイルは私の宝物。

「俺も葵も小山内さんや弥恵さんに可愛がってもらったけど、透子ちゃんへの愛情には勝てなかった。両親亡くして沢山の人の愛情に引き上げられながら生きてきたけど…一番影響を受けた小山内さんの気持ちの最優先は…透子ちゃんだった」

そう言うと、ニヤリと笑って

「ここに証拠があるから見て」

「…証拠…?」

仁科さんの視線の先に引かれるように近づいて見るそれは…。

明るい窓から差し込む光に浮かび上がる図柄…。
窓に施された絵は、彫刻のように線が緩やかに踊っているようにも見える。
一番端の窓に刻まれている絵は、光の加減によって見えにくくもあるけれど、確かにそれははっきりとした絵で…。

「竜が…いる」

思わず呟いてしまった。
口に手をあてて、呆然と見入ってしまう。

かなり大きなガラス窓に浮かんでいるのは天に向かって大きく浮かぶ竜の絵。
ガラスに刻んであるような絵は、よく見ないと気付く事はないけれど、確かに綺麗に現れている。

大きな竜の傍らに寄り添うように天を目指す小さな竜。
つかず離れずの距離感。

「小山内さんと透子ちゃんが寄り添っているイメージなんだって。

絵自体は小山内さんが下書きして、実際にガラスに挟み込んだシートに彫ったのは弥恵さん」

「え…」

「弥恵さんは学生時代に版画を勉強してたんだ。
仕事にしていた時期もあったらしいけど、今は趣味程度に楽しんでて…
小山内さんの為に、この窓に小山内さんの気持ちを彫ったんだ。

ま…このアマザンホテルの創始者が弥恵さんのお父さんだって事もあったから。

…小山内さんの遺した気持ちを見てみな」

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