童話少年-NOT YET KNOWN-



彼がそこへ向かったのは、特別な理由があるわけでもなしに、ただ何となくだった。
だからといって昨日のあの出来事がもう記憶の片隅に追いやられてしまっていたのでは決してなく、むしろ意識のどこかでそれをずっと気にかけていたからこその、気付かないうちの行動だったのだろう。

真っ暗な廃工場の中、埃が厚く積もった床に、スニーカーの真新しい跡が3種類付いていたのには、入ってすぐに気付けた。
そして、僅かな吐息と空気の移動と、気配も。

そうして雉世は、わざと背後に回って音を立てたのだ。
彼らが怪物の明らかな痕跡に絶句していたのも、悟った上で。

「こんばんは。」

振り返ったその表情に、明白な驚愕と少しの焦燥と、ごく小さな恐怖を見て、雉世は目を細める。
なにを考えているのかわからないと、何度も言われた笑い方で。

「……なんで……、佐津賀…………!?」

柄の悪い噂も多々ある彼になど、どう考えても似つかわしくない声色。
幼馴染みを守ろうとするのか、各々が各々に、牽制と威嚇を視線に込める。

そんな、健気にも思える姿を見ていたから、きっと血迷ってしまった。
賭けてみたくなってしまった。
その時のことを後に雉世は、そう言い訳するしかなくなる。

「何でって、君達と似たようなものだよ。好奇心……いや、少し違うな」

兎にも角にも彼は、狂気の笑顔を見せたまま、言ったのだ。


「自分が作り出した怪物を、今一度確認したかったから、かな」



< 30 / 135 >

この作品をシェア

pagetop