Parting tears ~another story~
第七話 二人きり
 結麻は雨の中、走って来てくれた。
 濡れた髪が俺を余計ドキドキさせたのは云うまでもない。
 
 隼人から結麻は歌が上手いと聞いていたので、俺はどうしても結麻の歌声を聴きたかった。

 カラオケに誘うと、結麻は「いいよ」と云ってくれたのだけれど、「誰か呼ぶ?」と訊く。俺はどうしても二人きりでいたい。やっと二人きりで会えたのだから……。今西は用事があると嘘を云い、どうにか二人きりで過ごせることに
なり、俺は心底浮かれた。

 そして、どうしても一番訊きたいこと、それは彼氏とまだ付き合っているかどうか、俺は勇気を振り絞り祈る気持ちで訊いた。もう別れたという結麻の返事が聞けた時は、小躍りしそうなくらい嬉しかったのを覚えている。

 カラオケBOXに入ると、密室でずっと好きだった人と二人きりというのは緊張した。俺は十三歳から結麻が好きだったから、他の女性と二人きりという経験もない。その分、結麻に彼氏がいた事実は、俺を嫉妬させるのに十分なくらいだ。でも、こうして今二人きり。結麻を独占したい気持ちで一杯になる。

 結麻の歌も初めて聴いたけれど、綺麗な声で本当に上手かった。俺は見惚れてしまい、きっと顔が赤くなっていたんじゃないだろうか。そして、俺が歌っている時、結麻と目が合ったのだけれど、恥ずかしくて俺はすぐに逸らしてしまった。


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