Parting tears ~another story~
 帰り道、俺は隼人と帰る方向が一緒だった。


「俺さ、どさくさに紛れて車の中でうとうとしてた結麻の手を握っちゃったよ~。それに、見たらすげ~綺麗な手だったぜ」


 そんな隼人に腹が立ったけれど、結麻が俺の恋人っていうわけでもないので何も云えず黙っていた。


「なぁ、マジで和哉も結麻に一目惚れしてないか?」


「そうだったりしてな~。そしたらどうする?」


 俺は本当の気持ちを表情に出さないように努め、ふざけてそう答えたけれど隼人は真剣な顔で云った。


「もしそうだったらライバルだな。でも結麻がお前のこと好きになるとは限らないぞ。今彼氏いるみたいだしな」


 その言葉で、俺は奈落の底へ突き落とされた気分になった。けれども、それだけで諦められるほど簡単じゃない。俺だってずっと結麻が好きだったんだから……。

 結麻の携帯番号を知っても、俺はなかなか電話出来ずにいた。それは隼人が云ったように、結麻には彼氏がいるから嫌がられる場合もあるだろう。

 二ヶ月近く考えた末、俺はとうとう結麻に電話をかけることにした――。

 何度目かのコールで結麻が出ると、俺の心臓はまたしても大きな音を立てている。それでも平静を装って話すと、結麻の綺麗な声が心地よかった。
 声を聴いていると、会いたいという気持ちが一気に溢れ出し、

「会わない?」とやっとの思いで云った。

 すると、結麻は今西や他の誰かも一緒なのかと勘違いしている。やはり俺と二人きりで会うのは嫌なのだろうか。もし二人きりで会えるとすれば、彼氏とは別れているかもしれない。わずかな期待をしながら、「誰か一緒の方がいい?」と訊いた。すると、結麻はどっちでもいいと云う。ガッカリしたけれど、結麻と二人きりで会うことは嬉しかった。

 少しでも会えるだけで幸せじゃないかと俺は思い直し、待ち合わせの高山台公園までは全力で走って行った。

< 14 / 39 >

この作品をシェア

pagetop