幸福論
「せんせー。」

「なんだ。」

「あたし、嘘つく人嫌い。」

清浦は、俺を見なかった。
見ないまま、笑った。

「補習、やめるー?」

清浦は笑っていた。
かきあげた髪の隙間から、微笑む口元が見えた。

「え、なんで。」

「先生もさ、かったるいでしょ。
 うちの担任にはさ、あたしがさぼったって言っとけばいーよ。」

どこかの生徒のはしゃぐ声が聞こえる。
放課後のおしゃべりに、花を咲かせているのだろう。

「補習、やめたいのはお前なんじゃないのか?」

清浦は、やっと、俺を見た。

「どうして?」

「嫌いだろ、補習。」

「嫌いじゃないですよ。」

彼女は、静かに話す。

「だって、どの先生も、嫌いな生徒には、補習なんかやんないでしょ?」

ああ、確かに。

「ねえ、桂木先生。どうする?」
< 29 / 34 >

この作品をシェア

pagetop