幸福論
時計を見る。今は午後2時すぎ。

「お前、昼飯食った?」

「いいえ。」

「何も食べずに、ずっとここにいたのか?」

「はい。」

静かに返される返答。
怒りも苛立ちは感じられない。

「よし。」

「え?」

「飯、食いに行くぞ。」

開けた扉を再び閉める。
後ろを振り返ると、清浦は、ポカーンとした顔でつったっていた。

「何食いたい?おごってやる。」

「いや、いいです。コンビニのおにぎりとかパンでいいです。」

「ダメだ。それじゃあ、俺の気がおさまらん。」

いつもどおり、ぶっきらぼうな喋り方で、答える。
やべっ、まるで、俺が怒ってるみたいじゃないか。

「そうですか、じゃあサイゼリアで。ここから近いし、安いでしょう?あたし、スパゲッティが食べたいです。」

清浦は、笑っていた。無邪気に。おもしろそうに。

「そうか。行くぞ。」

俺も、なんだか嬉しくなったので、清浦の頭をポンっと叩いてみた。

「はーい。」

後ろの小さな少女のために、ゆっくり廊下を歩く。

俺は、別に清浦が苦手なわけでは、ないのかもしれない。
もしかすると、清浦も、俺が嫌いなわけでは、ないのかもしれない。

彼女の軽い足音を聞きながら、そう思った。
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