蜜林檎 *Ⅱ*
行き交う人は皆、満面の笑みを
浮かべて樹の事を話している。
  
あちら、こちらに、樹への愛
が溢れている。
   
「アンズちゃん、来てたの」

振り返った杏の傍に、鏡子が
現れた。
  
彼女は言う。
   
「イッキと別れても、やっぱり
『moment』の音楽は聴いちゃう
 よね」

彼女は、何を

話しているんだろう。

「こんな事
 私が言う事じゃないけど
 イッキに未練があるなら
 きっぱり諦めた方がいいよ
    
 イッキはマリアと、また
 付き合い出したから・・・
 
 今度こそ、二人は結婚すると
 思うわ、じゃあね」

彼女は今、何て言ったの?

杏の中にまた、樹への不信感が
募っていく。
 
鏡子の言葉は、杏の不安な想い
に語りかける。
< 190 / 275 >

この作品をシェア

pagetop