淡い記憶
試験
水泳部は風邪ぎみの者は、プールに入れないし、雨が降っても入れないので、
梅雨の六月は、筋トレの時間も多く、秦野教師も来たり来なかったりで、
殆どが先輩を習って、生徒どうしで予定を組み立て練習をしていた。

日差しも強くなり、桜の木は、すっかり深い緑色の葉を繁らせて、
心地よい影を地面に作り出している。  
期末試験でクラブは休みであるが、塾は集中講義がある。  

青木は眠そうに授業を受けていた。
どこの学校も、一応試験中は、外出禁止で、
街で外出しているのが見つかると、
先生に怒られるという規則があったので、
塾以外は、コンビニにも行けないことになっていた。

どの生徒も疲れた顔で眠そうである。

 試験もあと一日、数学と世界史を残すのみとなった塾の帰りに、
青木は「痛てて」と腹を押さえた。
「大丈夫か?治らないのか?医者に行ったほうがいいんじゃないか?」  

そういえば、ここ二、三日青木が腹を痛がっていることに、
気がついた陽一郎は心配そうに言った。

「うん、言われてるんだ。明日、試験終わったら行くんだ。
だから、クラブは、休むから、田中に言っておいてくれ」
「そうか、言っておくよ」  

手を振って、自転車を家に走らせた。
角で振り向くと、まだ腹を押さえて、
自転車を車庫に進めることもできない様子で、
ハンドルを掴んでいる青木の姿が見え、マジに心配になった。

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