淡い記憶
「おい、今日、寒いんじゃないか?」  
部室に行く途中の道で後ろから、青木に声をかけられた。
水泳部のキャプテンで、百八十センチ以上もある長身で、
四月だというのに、浅黒い肌と、
制服を着ていると分からないが、
いかにも水泳部というような引き締まった逆三角形の上半身を持っていた。

その整ったバランスのとれた体は、高校生としては、立派な体であった。

 体育祭ではクラブごとの紹介で、それぞれのユニホームで運動場を一周するのだが、
バレー部や野球部と違って、
水泳部は、女子も水着の上にウインドブレーカーを着るだけの姿で、
まるで曝しもののようにみんなの前を行進するのである。

 その恥ずかしさといったら、男子でも赤面もので、
そんな中でも、青木のバランスのとれた体は、目を引くものがあった。

体育教師たちも、青木の水泳選手らしい鍛えた体を褒めるほどで、
別に堂々と歩いているわけでもないのだが、背が高く、鍛えた胸のせいで、
水泳部と書かれたプラカードを掲げて歩くだけで、堂々と見えるのが不思議であった。
< 2 / 22 >

この作品をシェア

pagetop