淡い記憶
四時になって、そろそろ帰ろうと着替えをして、自転車に乗ったものの、
思うように足が動かない。  
間抜けなことだが、二人とも、泳ぐことばかり考えていて、
自転車で移動する消費体力を計算に入れていなかった。

ただ移動手段としか、考えていなかったことに、今やっと気がついたのだ。

 登り坂で、もう自転車を押して歩こうかと思うくらいになった時、
前を走っていた青木が振り向いて言った。
「おい、これ、マラソンのないトライアスロンになってないか?」

 二人は、坂の途中で大笑いし、自転車をこいだ。
自転車はなかなか進まないし、足は笑うし、
笑いもなかなか止まらない。坂が下りになっても、
笑いは止まらず飽きるほど笑っていた。

 
そんなことを思い出して、陽一郎は、笑いを浮かべた。
「なんだ?ニヤニヤして」
「ああ、あのトライアスロンツアーを思い出してたんだ」
「あーあれな。あれはハードだったな」青木も笑った。
「次の日、十一時まで寝たよ」
「きれいな海だったよな」
「今年も行くか?」
「受験生だぜ。でも、一日くらい、いいよな」
「また、自転車で?」
「電車で行くか?」

 部室の見える校舎の裏に曲がった時、水泳部の女子に遠くから、声をかけられた。

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