どこかで誰かが…
もう一つのエピソード
高校1年の終わり頃…

岡島悠子の通う高校に、転入生がやってきた。


名前は高木圭介


クラスは違ったが、部活が一緒で知ることになった。


「“ゆうこ”で“ゆっこ”って呼ばれるんだなぁ。」

「え?」

「うちの母ちゃん“ひさこ”って名前なんだけど、あだ名はなんと“ちゃこ”だぜ!こっちに戻ってきて近所中から呼ばれてて、ビックリしたよ!」

「あはは、母親の過去を見てしまった感じ?」

「オエ〜…ホント勘弁してほしいよなぁ。」

「小さい頃に書いた“う”の字のバランスが悪くて、小さい“っ”に間違われたことがきっかけでね、それからずっと“ゆっこ”なの。」


これが、ゆっこと高木の初めて交わした会話だった。


姐御気質のゆっこの周りには、いつも人が集っている。


誰からも“ゆっこ”と気軽に呼ばれていて、それが耳に入っていたのだろう。


転入生は最初が肝心で、
気に留めてもらっているうちに、強い印象を付けておかないと
“転校生”としか呼ばれぬまま卒業することになりかねない。


クラスでは、興味を持って近づいてくる者がいるが、
部活ではそうはいかなかった。


新参者は、のけ者かライバル視され、自分から積極的に入っていかなければ、レギュラーが困難に…?


でも“馴々しい奴”と思われるのも癪なので、

ひとまず高木は、一歩下がって様子を視ることにした。

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