あなたへ。
家に帰ってからも、明からメールは着ていなかった。
今はバイト中だから当然なのだが、前ならトイレに行った際にとか、店が暇な時を見つけてメールをくれていたのに。

明、ひょっとしたらあたしが嫌になったのかな?
あたしが何の連絡もなしに突然、バイト先に来たから?
でもそれは、今日あたしが明にメールしたのに、返事がなくて心配だったから。
別に明のバイトの邪魔をしようとか、そんな気持ちは全然なかったのに。

あたしよりも、あの同僚の子達と話している方が楽しいの?
あたしのこと、嫌いになったの?
あたしは、明がいなくなったら耐えられないのに-…。

そう思いながらいつの間にか眠ってしまっていた。
心地よく夢の中にいたというのに、携帯のバイブ音が鳴っのであたしはそこから強制的に現実に引き戻された。
 
もう、誰?せっかく人が寝てたのに。

そう思いながら液晶画面を見ると、表示されている着信の名前は【明】-…。
それが目の中に飛び込んで来た瞬間、あたしの意識ははっきりと覚醒した。

「明っ!?」

「おう」

携帯の向こうで明は、あたしが思わず大声を出したのがおかしいのか笑っていた。

「ど、どうしたの?」

「どうしたのって、今1時の休憩」

枕元のライトを付け、目覚まし時計を確認すると深夜1時05分。
深夜シフトの従業員が、交代で休憩を取る時間だと明は話してくれた。
大体休憩は、自分も相方もバックヤードで寝ていると言っていたが。

「今日せっかく、店に来てくれたのに、あんま話せなくてごめんな」

「ううん…」

「なんか今日スタジオとかで色々忙しくてさ。メールくれてたのに、返せなくてゴメン」

「ううん…」

謝ってばかりの明。ライブでの俺様なキャラとは正反対だ。

「メールの返事なかったから、心配になって店に来たんだろ?」

「うん…」

明にかかっては、あたしの行動パターンなんですっかりお見通しらしい。

「あいつらの事だけど、マジでなんもねぇから」

「え…?」

「ほら、杏子が店に来た時話してた、バイトの子達さ」

「ああ…」

「最近あんまチケットさばけなくてさ。うちのバカ殿がおかんむりなのさ。誰でもいいからライブに連れてこいって」

バカ殿、とは海のことだろう。

「俺、あいつらに彼女いるって言ったし」

「そうなの?」

「隆人も里美ちゃんがいるしさ、なんかもうそういうのオープンにしねぇ?って話してて。まぁファンはさ、ほとんど海目当てだし。俺が彼女いるのわかってもだから?って思うさ」

そんなことはきっとないと思うんだけど。

「それでさ、杏子明日暇か?」

「うん。バイトは休みだけど?」

「俺今日朝までバイトだから、昼からになるけど、俺んちこねぇ?」

「え…?」

あたしが、明の家に行く…?
お父さんとか、お母さんは家にいないの?
社交性ゼロで極度の人見知りのあたしに、挨拶なんて出来るの?いや、当然しなきゃいけないんだけど、はっきり言って明のご両親に気に入られる自信など1ミリもあるわけがない。
そう言えば、2歳年上のお姉さんがいるって前に聞いたけど、もう結婚して家から出ているらしい。

「嫌か?」

「ううん、そんなことないけど…」

「よし、じゃあ決まり。待ち合わせとかは、また後でメールするよ」

「わかった」

「あ、今更だけど寝てたろ?起こしちまってゴメンな」

そういえば、初めて明から電話がかかってきた時も、あたし昼寝していたっけ。
それを思い出して、あたしはクスっと笑った。

「どした?」

「ううん。なんか初めて明が電話くれた時のこと、思い出してたの」

「マジ?俺も。俺達こういう感じ多いよな」

「あたし達、同じこと思ってたんだね」

「そうだな。じゃあ俺、そろそろ寝るわ」

「うん。ゆっくり寝てね」

そう言って楽しい電話の時間は終わりかと思ったが-…。

「杏子」

「ん?」

「マジ好きだから」

「…あたしも」

それで、通話は終了した。
今夜も眠れない。




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