あなたへ。
翌日(と言うか明から電話が着た時点で今日だったのだが)の午後13時。
あたしは近所のコンビニにいた。夏に皆で海に行った時、明と待ち合わせをしたコンビニである。
あれから緊張であまり寝れなかった。でも明け方の4時に明から「一回帰って寝るわ。13時頃あのコンビニの前で」とメールが着ていたのに気付かないところを考えると、少しは眠れたけど。

今のあたしは物凄く緊張している。こんなに緊張したのは、生まれて初めてかもしてない。
高校受験の合格発表の時よりも、就職試験の面接よりも、ライブの後出待ちして明に手紙を渡した時よりも-…。

平日の昼間だから、おそらく明のお父さんは仕事だと思うけど、お母さんがもし家にいたら?
なるべく笑顔で、感じ良く挨拶をしようとは思うけど、大丈夫かな?
明のお母さんってどんな人なんだろう。怖い人じゃないといいんだけど……。

そう思っていると、店の駐車場に見覚えのある型崩れした軽自動車が停車した。
明の車だ。
あたしは思わず駆け出して、車の助手席に滑り込んだ。

「おう」

「お疲れ様」

さすがにバイト明けなだけあって、今日の明は黒のVネックのTシャツに色あせたジーンズという、これまたラフな服装だ。もう見慣れたが。

「疲れてるでしょ?眠くない?大丈夫?」

明が割りと大きめの欠伸をしたので、あたしは彼の体調が気になった。
あたしはまだ経験がないが、夜中働いて昼間寝るという昼夜逆転の生活は、なかなか辛いらしい。
生活リズムが当然狂い、夜寝ようと思っても寝付けなかったり、変な時間にお腹が空いたりする。
最初バイトを始めた頃の明は、学校との両立がなかなか出来ず、授業中はほとんど寝て過ごし、口内炎がなかなか直らなかったと言っていた。
その話を聞くだけでも大変で、あたしはとてもじゃないけど出来そうにない。


「ん?帰って少し寝れたし。ってか、今日感じ違くね?どしたの?」

明がまじまじとあたしを見た。今日はお宅訪問ということで、もし明のご両親に会ってもいいように割と普通目の服装にしたのだ。
まだ残暑厳しいので上は半袖である。紺と白のボーダーのポロシャツにベージュの膝丈のタイトスカート。
夜帰る時に寒くないようにGジャンを腰に巻いた。靴はフラットなブラウンのパンプス。
あたしがいつも好んで着る原宿系のファッションは、あたし達の親世代には極めて好感度が低いことは、うちのパパとママで証明済みだから。

「あ…明のお母さんとかに会ってもいいようにって…。いつもの感じじゃ、あんまり印象良くないと思うし…」

「そんなに気を遣わなくても、うちの親なら大丈夫だと思うけど…」

「そうなの?」

「ああ。まぁ、行こうか」

大学卒業後にまともな職に就く事を条件としても、息子のバンド活動にある程度理解しているのだから、割と寛容なんだろうか?

「でも今日の服もよく似合ってる。本当可愛いよ」

明が車を発信させる前にそう言ってあたしの頭を撫でてくれた。それであたしは、自分の顔や耳が熱くなっていることを感じた。
あたしは俯いて小さく「……ありがと」としか言えなかった。
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