あなたへ。
「……まぁ、杏子の言う通りだ。そうだよ。あいつと…雛妃と、付き合って、あいつの部屋に転がり込んでた」
「そう…」
あたしはそれだけ言うと、俯いて黙った。何も言う事が出来なかった。
明も同じだったみたいで、狭い子供部屋に気まずい沈黙が漂う。
「…怒ってる?」
「いや、怒ってない…。怒ってないよ…」
あたしは自分の膝辺りを見つめながら、それだけ言った。
「だから、それは杏子と会う前の話で…」
「いや、それは、わかってる…」
明の言う事は最もだ。明が雛妃が付き合っていたのは、あたしと付き合う前の話で、全然関係がない。
明はイケメンだし、バンドマンだし、女の子の扱いも心得ているし、これでモテない訳がない。
女の子の方からいくらでも群がってくるし、今までに彼女なんて何人もいたに決まっている。
実際、フェニックスのファンの間の噂や、例の掲示板サイトでも、そんな事ばかり言われていたじゃないか。
海と明は、女好きの浮気性。女と見れば、口説かずにはいられないって−…。
「怒ってないけど…」
確かに怒ってはいない。ただ、前の彼女の存在なんて、聞かされても第一気分が悪い。
まぁ単純に、あたしは明の元カノで、しかも同棲までしていた雛妃に嫉妬しているだけなのだ。
なんたって、あたしと雛妃じゃタイプが違い過ぎる。あんなスタイルの良い肉感的な、ゴージャスな雰囲気な美人と、どこにでもいる特筆すべき点の何もないあたし。
どちらかと付き合うと聞かれたら、世の男性陣のほとんどが前者を選ぶだろう。
やっぱり明もああいう女性がタイプなんじゃないのかな?
だとしたら、いつかあたしは飽きられて振られてちゃう?また明の前にああいう女性が現れたら、明はそっちに乗り換えちゃう?そう考えると、不安が止まらない。
それと同時に−…あたしにとっては、明が生まれて初めての彼氏で、その恋愛も、毎日毎日勝手がわからない中、アレコレ思考錯誤しながら、手探りで進めているのだ。
それなのに明は、もう女の生態も、恋愛のノウハウも、知り尽くしていると言っても過言ではないだろう。
二人の恋愛に対する経験値が違うのが、歯痒かった。江戸時代の人間が、タイムスリップして現代の2008年にやってきて困惑しているようなものだ。
「…なんで、一緒に暮らしていたの?やっぱり、家が居辛いの…?」
「まぁ、それもあるな。家にいるかと思えば酒飲んで、親父や愛人の恨み言ばっかり言ってるおふくろといたって、あんまいい気分しねえしな。
それにこの家自体が、こんな郊外にあるじゃん。学校に通うのにも、バスと地下鉄使って3回も乗り換えだしさ。時間も1時間ぐらい掛かるし、定期代も結構高いし。
そんな事ぼやいてたら、うちに来ないかって言われて…」
「そっか…」
明の家庭環境を考えたら、家に居たくない気持ちもわかる。明はずっと辛かったんだ…。
明はなんにも悪くないのに、明は可哀相だ。これからは、あたしが明を支えてあげたい、傍にいてあげたいと思った。
そうは思っても、口に出したのは気持ちと全く違うことだった。まぁ、どうしてもそれを聞いておきたかったというのもあるけど。
「…なんで、別れたの?」
「あー…」
それを聞くと、明はまた困った様な顔をした。やはり、噂通りの理由なのかな。
「あのサイトには、明が他の子と浮気して、それを怒った雛妃さんが、同棲して部屋から明の荷物をゴミ置き場に捨ててたって、書いてあったけど」
「いや、それは違うよ!それは根も葉もないデマだ」
明が興奮したように声を荒げた。こんな至近距離で、こんな大声を出す明を見るのは初めてだったので、あたしは少し驚いた。
「誰が書いたのかわからねぇあのサイトの書き込みと、俺の言うことの、一体どっちを信じるんだ?俺は、こんなに杏子のことが好きなのに……」
そう言いながら、明は真っ直ぐあたしを見つめ、あたしの手を強く握ってくれた。
やっぱり、今の明はあたしを想ってくれてる。こんなに真剣な目であたしを見つめる明が、嘘なんて吐くハズがない。
「それはもちろん…明だよ」
あたしが、蚊の鳴く様な声でそう呟くと、明は心底ホッとしたようで「良かった」と言い安堵した。
「でも…それなら本当の理由は…?」
「俺がこれから話すこと、信じてくれるか?」
「うん」
「そうか。じゃあ話す」
「そう…」
あたしはそれだけ言うと、俯いて黙った。何も言う事が出来なかった。
明も同じだったみたいで、狭い子供部屋に気まずい沈黙が漂う。
「…怒ってる?」
「いや、怒ってない…。怒ってないよ…」
あたしは自分の膝辺りを見つめながら、それだけ言った。
「だから、それは杏子と会う前の話で…」
「いや、それは、わかってる…」
明の言う事は最もだ。明が雛妃が付き合っていたのは、あたしと付き合う前の話で、全然関係がない。
明はイケメンだし、バンドマンだし、女の子の扱いも心得ているし、これでモテない訳がない。
女の子の方からいくらでも群がってくるし、今までに彼女なんて何人もいたに決まっている。
実際、フェニックスのファンの間の噂や、例の掲示板サイトでも、そんな事ばかり言われていたじゃないか。
海と明は、女好きの浮気性。女と見れば、口説かずにはいられないって−…。
「怒ってないけど…」
確かに怒ってはいない。ただ、前の彼女の存在なんて、聞かされても第一気分が悪い。
まぁ単純に、あたしは明の元カノで、しかも同棲までしていた雛妃に嫉妬しているだけなのだ。
なんたって、あたしと雛妃じゃタイプが違い過ぎる。あんなスタイルの良い肉感的な、ゴージャスな雰囲気な美人と、どこにでもいる特筆すべき点の何もないあたし。
どちらかと付き合うと聞かれたら、世の男性陣のほとんどが前者を選ぶだろう。
やっぱり明もああいう女性がタイプなんじゃないのかな?
だとしたら、いつかあたしは飽きられて振られてちゃう?また明の前にああいう女性が現れたら、明はそっちに乗り換えちゃう?そう考えると、不安が止まらない。
それと同時に−…あたしにとっては、明が生まれて初めての彼氏で、その恋愛も、毎日毎日勝手がわからない中、アレコレ思考錯誤しながら、手探りで進めているのだ。
それなのに明は、もう女の生態も、恋愛のノウハウも、知り尽くしていると言っても過言ではないだろう。
二人の恋愛に対する経験値が違うのが、歯痒かった。江戸時代の人間が、タイムスリップして現代の2008年にやってきて困惑しているようなものだ。
「…なんで、一緒に暮らしていたの?やっぱり、家が居辛いの…?」
「まぁ、それもあるな。家にいるかと思えば酒飲んで、親父や愛人の恨み言ばっかり言ってるおふくろといたって、あんまいい気分しねえしな。
それにこの家自体が、こんな郊外にあるじゃん。学校に通うのにも、バスと地下鉄使って3回も乗り換えだしさ。時間も1時間ぐらい掛かるし、定期代も結構高いし。
そんな事ぼやいてたら、うちに来ないかって言われて…」
「そっか…」
明の家庭環境を考えたら、家に居たくない気持ちもわかる。明はずっと辛かったんだ…。
明はなんにも悪くないのに、明は可哀相だ。これからは、あたしが明を支えてあげたい、傍にいてあげたいと思った。
そうは思っても、口に出したのは気持ちと全く違うことだった。まぁ、どうしてもそれを聞いておきたかったというのもあるけど。
「…なんで、別れたの?」
「あー…」
それを聞くと、明はまた困った様な顔をした。やはり、噂通りの理由なのかな。
「あのサイトには、明が他の子と浮気して、それを怒った雛妃さんが、同棲して部屋から明の荷物をゴミ置き場に捨ててたって、書いてあったけど」
「いや、それは違うよ!それは根も葉もないデマだ」
明が興奮したように声を荒げた。こんな至近距離で、こんな大声を出す明を見るのは初めてだったので、あたしは少し驚いた。
「誰が書いたのかわからねぇあのサイトの書き込みと、俺の言うことの、一体どっちを信じるんだ?俺は、こんなに杏子のことが好きなのに……」
そう言いながら、明は真っ直ぐあたしを見つめ、あたしの手を強く握ってくれた。
やっぱり、今の明はあたしを想ってくれてる。こんなに真剣な目であたしを見つめる明が、嘘なんて吐くハズがない。
「それはもちろん…明だよ」
あたしが、蚊の鳴く様な声でそう呟くと、明は心底ホッとしたようで「良かった」と言い安堵した。
「でも…それなら本当の理由は…?」
「俺がこれから話すこと、信じてくれるか?」
「うん」
「そうか。じゃあ話す」