嘘つき⑤【-sign-】

「なっ、…あなたどういうつもり?これ以上私に恥をかかせないで」

甲高い声。彼女の守りたいものが、愁哉さんへの感情なのか、それとも、自分を守る為のものなのかあたしには分からない。


だけど、部長が感慨すらなく放った次の言葉には、


「天童さん、僕は引き抜きに応じる気はない。君の真意は分からないが、仕事の話なら場所を考えてもらおう」


もう頭がついていかない。

部長は、眉を潜めて不機嫌に、確かにそう言った。

…引き抜き?

場に合わない耳を疑う一言。もしかして、話が逸れたんですかと聞き返したくなる。

惣本さんが肩を震わせていたのは、絶対笑いをこらえているからだろうし、琴音さんはいまだ凛としていて、二人のやり取りにも全く動じていないように見える。


あたしだけ?こんなに訳が分からないのは?


「あなたは馬鹿だわ。婚約も解消されて、あなたの椅子なんてもうないわよ。買い被りだったのかしら?あなたは野心的な人だと思っていたのに」

そんなあたしの右往左往する思考なんか無視して、天童さんは次々と爆弾を投下してくれる。


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