嘘つき⑤【-sign-】

愁哉さんは少しだけ眉を上げてあたしを見つめた。
透明な瞳は刺す様に冷たくて、まるで全て見透かすみたいに射抜く。






「…お嬢様」



だけど愁哉さんの低い声は寂しそうな色と共に小さく落ちて、あたしは僅かに体が震えた。





「なぜ、泣きそうな顔をしているのですか」





低くて、優しい声に、




私は初めて自分の表情を知る事になる。




そして、




湧いてきたのは、




言いようのない、喪失感。


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