恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―


「気をつけて帰るんだよ。キミに何かあったら家族が心配する」

「……分かってます。じゃあまた」

「ああ。……また」


まるで名残惜しんでるみたいな間(ま)。

会話を終えて、藍川が歩き出す。


その背中を、おじさんはじっと見送っていた。


「藍川と会った事あるの?」


随分小さくなった藍川の姿。

まだ見つめているおじさんに聞くと、おじさんは困り顔で微笑む。


「どうして?」

「なんとなく……初対面にしては、会話がおかしかった気がしたから」


おじさんはまた藍川の後ろ姿を見つめて、「いや……初めてだよ」とだけ言った。

「ふぅん」なんて返事をしながら家に入る時、なにげなくおじさんの車が目についた。


8年前、みんなでディーラーに行って、そこで色も内装もみんなで選んだ車。




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